PCの登場、スマホの普及、サブスクサービスの台頭…… 世はデジタル時代。音楽はAmazonPrimeでいつでも聞ける。Instagramでイラストも絵画も見られる。YouTubeでいろいろな娯楽が見られる。知らない場所にもストリートビューで行ける。スマホひとつですべてが完結する時代、片手に収まる全世界。便利な世の中になった。
だからこそ。このデジタル時代だからこそ、わたしはアナログで絵を描いた。絵具の盛り上がり、平滑な画面、ギザギザとした筆の跡、ゆれる境界線。アナログ絵画には、作者の呼吸が宿る。筋肉の動きが境界線に現れ、心臓の鼓動が筆の跡になって残る。息を止めて慎重に絵具を盛り上げる、もしくは、一気に息を吐いて絵具を塗り広げる。血管を赤血球と酸素が駆け巡る、そうして動く指先の動きのすべてがキャンバスに現れる。どの角度からも鑑賞できる、環境次第でいくらでも表情を変えるアナログの魅力はそこにある。ビットに変換されない、作者の呼吸をそのまま宿す存在に触れたい、触れてほしい。だからこそわたしは、このデジタル時代に、アナログで絵を描いた。